震災を乗り越えて甦る、気品溢れる清麗な酒「墨廼江（すみのえ）」


東日本有数の水産都市として繁栄する石巻市に1845年（弘化2年）の創業以来、地元で愛飲されてきた酒「墨廼江」。
漁業の町の地酒らしく、磨き抜かれた澄んだ味わいが身上で、魚との相性の良さはいうまでもありません。

仙台の旧家出身の初代が石巻に居を移して海産物・穀物問屋を始め、北上川の河口に開けた東北太平洋岸の海運の拠点として栄華を極めた石巻の地で大きく事業を拡大し、その一環で酒造業の譲渡を受けて酒造りが始まったそうです。
酒名の由来は、創業時に蔵が存在した土地の名が墨廼江町であり、近隣に水の神様を祭った墨廼江神社があったことに因むもので、歴史ある地名を今に伝えています。

現蔵主は６代目に当たる澤口康紀さん。
1989年（平成元年）に蔵に戻った当時の墨廼江酒造は卸問屋を兼業し、普通酒主体の酒蔵でしたが、蔵入り後すぐに国税庁醸造試験所（現・独立行政法人酒類総合研究所）で研修を受け、全国の高品質な酒の凄さを身を持って学ぶことで、蔵を受け継ぐ心構えと酒造りの情熱が芽生えたそうです。
研修を経て蔵に戻った澤口さんは、卸問屋部門を廃止して酒造業に特化、しかも少量生産による高品質な酒造りへと、周囲の猛反対を押し切って蔵の変革を英断します。
幾多の苦難を乗り越え、現在では高級酒の生産比率が高く、品質面でもトップクラスの宮城県産酒に比例して、墨廼江酒造も本醸造酒・純米酒・吟醸酒といった特定名称酒がほとんどを占めるようになったのです。
様々な酒米を使い分けつつも宮城酵母のみを使用して、地の酒の個性を静かに主張する「墨廼江」の最大の特長は、何といっても凛とした気品漂う綺麗な味わい。
初めて飲む者の心をとらえて離さないその綺麗さは、何物にも代え難いほど上質でやわらかさがあります。また、漁業に生きる石巻の酒らしく、魚料理は言うに及ばず、素材を生かした和の食卓には欠かせない酒のように思えます。
酒質同様、ラベルもシンプルなのですがとても上品でセンスの良さを感じます。これは澤口さんが以前、大手衣料品販売会社に勤務経験がおありだからでしょうか？
東日本大震災を乗り越えて、また再び「墨廼江」を醸すことが出来ることに感謝し、復興への祈りを込めて造られているこのお酒をぜひ、みなさまにも味わっていただきたいのです。

東日本大震災と墨廼江酒造

墨廼江酒造がある石巻市を訪れたのは、震災のわずか９か月前でした。しかも蔵元の澤口社長にお会いしたのは震災前日の東京での利き酒会。まさか次の日にこんな悪夢が訪れるとは思いもしませんでした。
蔵訪問の際、澤口社長に案内して頂いた日和山公園から見た美しい石巻の街並みが今も目に焼き付いております。一日も早い復興を願うばかりです。

2011年（平成23年）3月11日に発生した我が国最大級の地震、東北地方太平洋沖地震は、墨廼江酒造の地元・石巻市にも未曽有の被害をもたらしました。
津波による被害は太平洋沿岸地域のみならず、東北地方随一の大河・北上川を逆流して内陸部にまで及び、海岸から２km以上離れた石巻の中心市街地をも襲ったのです。
大きな揺れの後に津波が泥や瓦礫とともに蔵に押し寄せ、急いで冷蔵コンテナの上に避難して奇跡的に人的被害は免れたものの、３日間も水が引かず醸造機器類は壊滅、今季の酒造りは絶望的と思われました。
しかし、傾いた仕込みタンクのもろみは無事で、震災を生き抜いた酒は墨廼江酒造の希望となり、復興への第一歩を踏み出すことが出来たのです。
このとき、自らも被災したにもかかわらず、墨廼江酒造に救援物資や運搬用のフォークリフトを送り、支援をしてくれたのが伯楽星の蔵元・新澤さんだったという素敵な美談があります。
全国からの支援を受けて翌年にはほぼ復旧が成り、酒造りを再開した墨廼江酒造。「この恩を忘れずにより良い酒造りに邁進し、地元石巻の復興にも尽力していきたい。」と、澤口社長は力強くお話して下さいました。
震災から立ちあがり、より一層綺麗で気品漂う美酒へと飛躍しつつある「墨廼江」をこれからもずっと応援していきたいと思っております。